風俗店勤務を家族にバラされたくなければ口止め料を支払えと恐喝された事例

1.事案の概要~弁護士との相談に至るまで~

相談者は40代女性で、パートで働く主婦。
夫と中学3年生、小学6年生の子どもと仲睦まじく暮らしていました。

そんな中、夫が勤めている会社の事業縮小のあおりを受け、転職することに。
転職に伴い夫の収入が少なくなったことにくわえ、子どもの進学等により学費が一時的に増加し、二人あわせての収入では家計が回らなくなりました。

しかし夫に相談しようと思うも、慣れないなか転職先で頑張って働いている夫に負担をかけたくはありません。
また両親や兄弟などに援助を求められる状況にもありませんでした。

そこで家計のやりくりを担っていた相談者は、家計の足しにするため、家族に内緒でやむを得ず風俗店で働くことにしました。

風俗店で働いて数カ月後、いきなり知人からSNS(LINE)で連絡が。
その内容は、「風俗店で働いているけど、家族は知っているのか。」というもの。
どうやら風俗店のHPで相談者が掲載されているのを見つけた模様でした。

返答をどうしようか迷って、いったんはスルーしていました。
すると、「風俗で働いていることを家族にバラすか、ネットに流すよ。バラされたくなかったら、口止め料を支払え。」と脅し文句とともに金銭を要求する再度の連絡が。

相談者は、もちろん家族にバラされたりネットに流してほしくもありません。
ですので知人に、なんとか内緒にしといてもらえないかと伝えるも、それなら口止め料を払えと。

口止め料に対して返答を濁していると、だんだんと相手方の口調や態度はエスカレートしていき、お金を払わないと本当にバラされるのではと恐怖を覚えるように。
また相談者は最悪口止め料を払っても・・・と一瞬考えましたが、冷静に思うと支払ったところで本当にバラされない保証はないし、一回支払っただけで終わるのかなど不安にもなり、夜も眠れなくなりました。

そこで、どこか土日や祝日でも相談できることはないかとネットで検索していたところ、弊所のHPを発見。
平日はパートや家事育児で忙しく、また弁護士に相談することも家族にバレないようにしなければならなかったからとのことです。

結果、夫と子どもたちが出かける用事のあった日曜日にご来所いただくことに。

2.弁護士との相談~方針決定~

このような恐喝被害の場合、対処方法として、弁護士から警告を行う、警察に捜査してもらうなどが考えられます。

たいていの相手方は、弁護士から警告を受けたり、警察から事情聴取を受けることで恐喝行為をやめることになります。
ただ警察が捜査するとなると、刑事事件として対応する以上家族にバレないようにするなどの配慮は残念ながらそこまで期待はできません。

以上を伝え依頼者の要望をたずねると、相手方を刑事罰に処したいという気持ちはなく、何より恐喝をやめさせ、できるかぎり家族にバラされないようにしてほしいとのこと。
したがって、まずは弁護士から警告を行ってほしいということで依頼を受けることに。

なお弁護士が介入したとしても、相手方によっては逆上したり暴走したりすることで、バラされてしまうリスクがゼロになるわけではないことを説明いたしました。
相談者は、当然バラされないことに越したことはないものの、恐喝に対する不安や恐怖を最優先に解消させたいとのことで、もしその際は正直に家族に事情を話すとのことでした。

それから方針を決定するため、依頼者の所有している恐喝の証拠と相手方の情報を確認。

まず恐喝の証拠は、SNS(LINE)のやり取りをそのまま残したままとのことだったので、消去はしないように伝えるとともにスクリーンショットで保存して提供いただくことに。
もし、警察に被害届を出すことになったり、交渉が民事裁判にまで発展した場合には、証拠として提出する必要があるからです。

相手方の情報としては家族と同居しているとのこと。
ですので、内容証明による警告書面の郵送は採らないことに。
相手方ではなくその家族の誰かが受け取る可能性があり、それにより恐喝行為が家族に知られ、逆上するリスクがあるからです。

そこで、相手方の携帯番号も知っているとのことだったので、弁護士から直接相手方の携帯に電話をかけ、警告及び交渉を行うことに決定
電話をする時間帯も逆上リスクを少しでも減らすため、相手方が家族といるであろう休日は避け、平日の昼間にすることに。

3.受任後の弁護士の活動~解決に至るまで~

早速、翌日が平日月曜だったので、弁護士から相手方の携帯番号に電話。
しかし、相手方ではなく別人でありました。

依頼者に報告すると、約10年前に知ったものであるから、現在は変わっているかもしれないとのこと。
そこで、依頼者と検討の結果、相手方のSNS(LINE)アカウントを共有してもらい、事務所携帯からSNS(LINE)でまずは連絡をとることに変更。

事務所携帯から、弁護士が依頼者の代理人として受任したことにくわえ、今後依頼者及び家族など関係者に対して連絡を取らないようにとSNS(LINE)にてメッセージを送りました。

すると、相手方から「どういうことですか」との返信が。
それに対し、弁護士から口頭で話したい旨を伝え、携帯番号を教えてもらえないかと再返信。
携帯番号の記載が返ってきたので、当該携帯番号に電話。

相手方は、実際に弁護士から連絡がきたことで驚いた様子。
弁護士は、「風俗で働いていることを家族にバラすか、ネットに流すよ。バラされたくなかったら、口止め料を支払え。」と依頼者にSNS(LINE)で伝えた行為は恐喝罪に該当しうるため、やめるよう要求しました。
くわえて、それでも継続するようであれば、警察に被害届を提出し、刑事事件として対処していく旨警告も行いました。

それを聞いた相手方はすぐに、「わかりました。もう依頼者には恐喝はもちろん連絡もしませんし、家族にバラしたりネットに流したりもしません」と回答したので、通話を終了しました。

以上を、依頼者に報告すると、安心したとともに感謝の声。
念のため上記通話から1カ月間状況を伺っていましたが、依頼者・事務所ともに相手方から再び連絡はなく、また風俗店で勤務していたことがバラされた様子もありませんでした。

結果、依頼者の要望どおりに、かつ依頼から1日でのスピード解決に至りました。

4.弁護士からのコメント

今回の事例では、「口止め料を支払わなければ風俗店で勤務していることを家族にバラすか、ネットに公開する」と恐喝されています。

この点、「ネットに公開する(投稿する・流出する)」という脅し文句は最近よく見受けられるようになりました。

背景としては、携帯からスマホに、媒体としても掲示板やブログ以外にSNSが流行するなどインターネットを取り巻く環境が変化、具体的には、年々誰もが手軽に情報を発信できるように変わったことが大きな要因としてあります。
すなわち、いったん情報がネット上で公開されると、投稿者以外の第三者によっても簡単にコピー・拡散されることが多々あり、そうなると完全に情報を消し去るのは相当難しいと言わざるを得なくなります。

このような状況を踏まえると、残念ながら 「ネットに公開する(投稿する・流出する)」という文句も脅しとして効果的であることから、それに付け込み金銭を要求する恐喝被害事例が増加しているといえます。

一方、今回の事例は、恐喝が行われたSNS(LINE)のやり取りを依頼者がそのまま残したままであったことがポイントの1つでした。

今回の相手方はすぐに認めたからよかったものの、相手方によっては恐喝をしていないと否定することもあります。
その際、恐喝の証拠があるとないでは、交渉を有利にすすめられるかどうかに大きく関わってくるからです。

ですので、メールやSNSでのやり取り、電話・会話を録音するなど証拠を保存しておくことは非常に重要です。

なお風俗で働いていることだけでなく、「不倫や浮気など自らに落ち度もある秘密をバラすぞと恐喝されているが、これは仕方ないのでしょうか?」と相談に来られる方も多くいらっしゃいます。
しかし自らに落ち度もある場合だからといって、恐喝されるいわれはありません。

したがって、どのような場合であったとしても恐喝された場合には、弁護士にすぐ相談することをおすすめします。

Bio

弁護士 若林翔

弁護士法人グラディアトル法律事務所代表弁護士。
男女トラブルや詐欺、消費者被害、誹謗中傷など多岐にわたる分野を手掛けるとともに、顧問弁護士として風俗やキャバクラ、ホストクラブなど、ナイトビジネスの健全化に助力している。